知識が釣り人の知恵と技を研鑽する一助になることを期待する。
「魚の行動習性を利用する釣り入門 科学が明かした「水面下の生態」のすべて」より引用
今回紹介したい釣り本は、川村軍蔵著(鹿児島大学名誉教授)、2011年4月刊「魚の行動習性を利用する釣り入門 科学が明かした「水面下の生態」のすべて」という本です。
- 魚釣り初心者へ向けた本ではない
- 1章 魚を知る「魚の視細胞は4種類で紫外線を色光として見ることができる」
- 2章 撒き餌を科学する「魚は匂いの強さの微妙な差を検出して匂いの強い方に向かう。匂源を知るのは匂いの濃度差と流れが手掛かり」
- 3章 釣り餌を科学する「主に食べている餌の種類は限られている。その種類はその水域に最も沢山居る種類とは違う。魚は餌を選択して食べている」
- 4章 ルアーを科学する「側線の機能を過信している。音を感知するのは内耳であって側線ではない」
- 5章 釣りのポイントとタイミング「潮の動きで魚のON/OFFがあるのは餌生物の動きが活発になるから?」
- 6章 釣りにくい魚と釣りやすい魚「釣りにくい魚はハリスと釣針を警戒する」
- 7章 釣り具と仕掛け「必ずしも遊泳層が釣獲層にはならない」
- 8章 釣り場の水環境「釣りの上達には釣り場の水について科学的な知識を持たなければならない」
- 9章 釣りのルールと釣り場の保全「釣りの感動を障害者にも」
- まとめ
魚釣り初心者へ向けた本ではない
タイトルに入門とありますが、この本は魚釣りの初心者が読むための入門書ではありません。ある程度魚釣りをやってきた人が、魚や釣りの知識を蓄えるのに良い本だと思います。
淡水・海水・ルアー・エサ釣りと幅広く書かれているので、なんの釣りをしていても参考になるのではないかなと思います。
まあ、これを読んだからといって釣りが上手くなるわけではないですが。
私は、魚釣りというのは知識と経験を持ってして様々なことを推測し、その時の釣り場や魚にアジャストしていくゲームだと考えているので、どのような知識も持っておいて損はないと思っています。
それでは、個人的に面白いなと思った部分を章ごとに1つずつピックアップして紹介したいと思います。
1章 魚を知る「魚の視細胞は4種類で紫外線を色光として見ることができる」
まず「魚は」と大きく括っていますが、魚種ごとに紫外線が見えるかどうかは差があるそうです。
紫外線が見える魚種からすると、白いルアーは白く見えていないはずです。人の認識している色とは別の色に見えているはずです。
人間は紫外性を見ることは出来ないですから、それらがどのように見えているかすら想像が難しいですね。
ちなみに紫外線ライトが紫色をしているのは、人間に見えるようにするためにそういった色にしているだけで、紫外線が見えているわけではありません。また紫外線UV発光も紫外線によって可視光が発光しているだけです。
▼紫外線について面白い記事を見つけたのでこちらも載せておきます
▼1章で面白かった部分抜粋
30(ページ)オオクチバスとブルーギルは赤い色に感度が良いのが他の魚と違うところ.31魚の視細胞は4種類で紫外線を色光として見ることができる.32体表の一部が紫外線を反射する魚種において、メスの紫外線反射模様がオスを誘引する.36松果体は上部の明暗を知る第三の目.
2章 撒き餌を科学する「魚は匂いの強さの微妙な差を検出して匂いの強い方に向かう。匂源を知るのは匂いの濃度差と流れが手掛かり」
2章の「撒き餌を科学する」は、フカセ釣りをしている私には非常に興味深い章です。
餌の匂いを嗅いだ魚は動きが活発になりその餌を見つけようとするという事が書かれています。これを索餌行動というそうです。
コマセの釣りをしている人からしたら当たり前に考えつく事ですが、潮上にコマセを入れたら潮下に匂いが流され、そこから広がって魚が寄ってきそうだ!と考えますよね。
まあこれが実際にはその通りですよと書かれているわけです。
魚は匂いの強さの差を感じ取って匂いの強い方に向かうと言う事ですから、釣り場についたらコマセを広範囲にバラ撒き、広く魚にコマセの存在を気づかせた後に、一点にコマセを撒きそこに魚を収束させていく…といったような戦法が考えつきます。
これはチヌフカセ師なら割とやっている人も多いんじゃないかと思います。
▼2章で面白かった部分抜粋
40魚が餌の存在を知るのは視角と臭覚。味を感じるのは味蕾だが餌に接触しなければ味は分からない小さな餌の振動を側線で検出できる距離は魚の体長範囲程度に限られ、側線は遠くの餌の検出器としては機能できない.42魚は匂いの強さの微妙な差を検出して匂いの強い方に向かう。匂源を知るのは匂いの濃度差と流れが手掛かり.43各種のアミノ酸に対する臭覚反応がマダイの産地によって違った。マダイの系統が違うと臭覚感度特性が違うことを示す.55黄海でのマダイの摂食のピークは午前9時頃.56満腹した魚は2時間後には撒き餌に興味を示すようになる
3章 釣り餌を科学する「主に食べている餌の種類は限られている。その種類はその水域に最も沢山居る種類とは違う。魚は餌を選択して食べている」
「マッチ・ザ・ベイト」という言葉があります。釣り対象魚が食べている餌とマッチしたルアーを使うといった意味ですね。
魚が食べている餌、それは必ずしもその水域に一番沢山いるベイトでは無いという事が書かれています。
例を挙げるなら、「これだけ小魚いるのにここのブラックバス、エビしか食ってない!」みたいな感じでしょうか。
3章に書かれている事によれば、魚は餌を選択して食べているという話です。
釣り対象魚が食べている餌について知ることは、その対象に迫っていくうえで非常に重要だと思います。季節によってその水域の餌が増えたり減ったり、または無くなったりするので、魚もそれに応じて食べるためにエリアを変えるといった事が考えられます。
釣りたい魚がこの時期はどこでどんな餌を食べているかを紐解いていくと、釣り場選びの参考になる事は間違い有りません。
▼3章で面白かった部分抜粋
62生き餌は変則的な動きをする魚だけが食われていた.66主に食べている餌の種類は限られている。その種類はその水域に最も沢山居る種類とは違う。魚は餌を選択して食べている.67魚には体表味蕾が有るものがおり、口に入れる前に味を検知できる。体表味蕾が第一スクリーニングとして機能し、それをパスしたら口腔内味蕾で第二スクリーニングとなる.69どの魚種にも有効な化学成分は限定されていること、1つの群れの中の魚でも味の好みに個体差があること。さらに魚の味の好みは遺伝的であること
4章 ルアーを科学する「側線の機能を過信している。音を感知するのは内耳であって側線ではない」
魚の側線は非常に感度の良い振動感知器だが、ルアーの動きによって発せられる振動を感知して魚が食いつくというのは俗説であり、側線の機能を過信していると書かれています。
ざっくりこれだけを言われたら、釣り人からしたら反論もある部分じゃないかと思うんですが、読んでみれば納得する話でもあるので、気になる方はぜひ買って読んでみて欲しいと思います。側線の感知範囲など詳しく書かれているので面白いです。
▼4章で面白かった部分抜粋
86側線の機能を過信している。音を感知するのは内耳であって側線ではない.89内耳ではルアーの動きは感知できない。側線でも内耳でもないのだから、ルアーの動きを感知するのは眼しかない
5章 釣りのポイントとタイミング「潮の動きで魚のON/OFFがあるのは餌生物の動きが活発になるから?」
潮が変化したときにいきなり魚の食いが立つ、所謂”時合”を経験したことのない釣り師は少ないでしょう。
食う潮、食わない潮の条件はなんなのか?これは海釣りの永遠のテーマだと思います。
5章では潮の動きで魚のON/OFFが切り替わるのは餌生物の動きが活発になるからではないか?と書かれています。
決して断定系で書かれている訳ではないですが、その可能性もあるという感じですね。
▼5章で面白かった部分抜粋
103.上げ三分下げ七分.103潮の動きで魚のON/OFFがあるのは餌生物の動きが活発になるらしい.107下手の長竿.112人工魚礁に集まる魚は潮上で食いが良い
6章 釣りにくい魚と釣りやすい魚「釣りにくい魚はハリスと釣針を警戒する」
コマセを撒いて釣りをしていると、魚が針のついた餌だけを避けてコマセを食べているのをよく見ます。
ハリスが見えて警戒しているのか、又は針なのか両方なのかはわかりませんが、警戒することは確かです。
では何故そもそもそ警戒するのか?一度痛い目を見たからなのか?それとも挿し餌とコマセの沈下速度の違い等から警戒するように遺伝子に組み込まれているのか?
6章では魚のスレやスレの持続時間、スレは遺伝するのか?等が詳しく書かれています。
7章 釣り具と仕掛け「必ずしも遊泳層が釣獲層にはならない」
要は、魚の泳いでいる層と釣れる層は違う場合があるという事ですね。
魚探を見ながら釣りをしていると偶に遭遇しますが、明らかに反応がある層よりも上目にルアーを引いてくると浮いてきて釣れるといったことがあります。ベタ底に居たとしても上にルアーやコマセがあればそれに反応して浮いてきて食ったりもしますね。
▼7章で面白かった部分抜粋
164釣針は磁化したら魚に好ましくない針になる?.170ハリスの見えやすさは光の条件次第.174必ずしも遊泳層が釣獲層にはならない.175視軸は摂食行動と無関係かもしれない.175 176光の屈折率で水深の目測を浅く誤る。水面から眼の高さが低いほど浅く見える
8章 釣り場の水環境「釣りの上達には釣り場の水について科学的な知識を持たなければならない」
著者の川村先生は「釣りの上達には釣り場の水について科学的な知識を持たなければならない」と、釣りの先輩に教えられたと書かれています。
私もこの言葉にはすごく賛同します。
温度、濁度、溶存酸素など、勉強していくほど釣行後の反省に役立つ事が多いと私も感じています。
魚が釣れなかった時、何がダメだったのか?どのようなアプローチが他に有ったのか?等、考えることは多いですが、そもそも水がどうだったのか?はかなり重要な要素だと私は考えています。
特に止水域の釣りでは水は天気の影響を大きく受けますから、それだけ水が魚に与える影響も大きいでしょう。バスフィッシングのうまい人たちが水に詳しいのは必然なんでしょうね。
▼8章で面白かった部分抜粋
184釣りの上達には釣り場の水について科学的な知識を持たなければならない。環境情報.186水温躍層(すいおんやくそう)とは水温が急激に変化する層躍層の下は溶存酸素が少ないので、魚は溶存酸素が十分な躍層の中に群れている。この時狙うのは躍層の中である
9章 釣りのルールと釣り場の保全「釣りの感動を障害者にも」
私がこの章でピックアップしたいのは「釣りの感動を障害者にも」という項目です。
著者の川村先生は、障がいのある方に釣りをして貰うというイベントをご自身で開催され、障がいの有無にかかわらず全ての人に釣りを楽しんでもらいたいと書かれていました。
私が障がい者の釣りに対して考える機会があったのは、キャスティングの方法について某釣具屋の親父の動画を見ているとき、これは正しい、これは間違っているとズバズバと言っているのをみて、「じゃあ体が痛かったり何か障がいがあってそのフォームができない人はみんな間違ってるって事じゃん、その辺の人たちにフォローないのか」と、「間違い」という強めの言葉を使っていることに対して割とネガティブに感じたのが、障がいと釣り問題に対しての入口だったように思います。
私自身も数年前にテニス肘を患ってからは、釣りにおいて出来ない姿勢や動作が一気にふえてしまい、そことどうやって向き合っていくかを常々考えています。
釣りというのは管理された釣り場以外は自然に向き合った遊びなので、バリアフリーの釣り場というのもほぼ存在しないんじゃないでしょうか。
車椅子の人だったら、車横付けで降りたら段差がなくすぐ海で、尚且つバリアフリーのトイレも近くにないと厳しいのかなと想像したりします。
私はこの問題に対して具体的にアクションしているわけではないんですが、ただ漠然と、そういった人たちが気兼ねなく釣りできる場所があったらいいのにな〜と考えています。
▼9章で面白かった部分抜粋
205生物学的には全長と体長は違う。.206陸棲動物はいずれは成長が止まるが、魚は生涯成長し続ける.210乳酸の蓄積によりリリースの際に泳いでいても、その後回復しない事がある.212鱗の剥離は魚にとっては大怪我.226釣りの感動を障害者にも
まとめ
今回は各章事に1つの事をピックアップして紹介してみました。
“面白かった部分抜粋”にも書いたように他にも参考になりそうな面白い事が沢山あって、全部を紹介するのは難しいのでそこはまあ、是非買って読んでいただきたいですね。
電子版もあるのでスマホに入れておいて暇つぶしに読むのもオススメ。図解も少なめなので特にストレスなく読めると思います。
そして、この手の本を紹介するときは常に書いておこうと思うんですが、何事も常識というのは常に更新されていくものだと思うので、本に書かれていることが未来永劫正しいとは限りません。
知識を集め、常に最新のものに更新し、それらを使って推理し、魚に正否を問う。
知識を持った釣り人は、より深く釣りを楽しめると私は思っています。